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* 彼と彼女の抱き枕 2 *

「キツ……芽子、力抜いて」
 芽子に押し入る城田はその眉間に皺を寄せる。
 あまりの閉塞感に、城田の引き結んだ唇からはクッと低い声が漏れる。
「はン……ぅあ……やっ……あぁっ…………」
 城田の問いかけに芽子は嬌声以外で返事をすることができない。
 痛みはないが、慣れない圧迫感が芽子を支配する。
 セックスは初めてじゃない――しかし、どうしていいのか分からないくらい芽子は翻弄されていた。
 最後の彼氏と別れたのは大学三年生の終わり頃だったろうか。つまりかれこれ四年ぶりくらいの行為だ。しかし、四年前の記憶を呼び起こしても、芽子は自分にこんなに余裕がなかった覚えはない。
 城田は何度か角度を変えて自らを芽子に馴染ませる。
 ようやく最奥に到達したとき、
「だめ……んン……あぁぁっ!」
 芽子は何度目かの波を迎えた。もはや、少しの刺激でも簡単に達せるくらい、芽子の体は解されていた。
「芽子、またイった? 敏感だな」
 分かっているだろうに、城田は敢えて聞く。その顔に不敵な笑みさえ浮かべて。
 悔しいことに、そう言われるだけで芽子の秘部は反応し、潤いを増す。
 それが恥ずかしくて、
「ちが……う……」
 照れ隠しに芽子が思わず嘘を吐けば、
「そう。だったら、物足りない? もっと?」
 城田が今までより大きく抜き差しした。最奥をかき混ぜるようなそれに、芽子はたまらずに腰を引く。
「あ、あ……やぁ……も……む、り……」
 城田は、芽子を逃がすまいとするかのように速度を上げ、芽子の中心部の蕾をクッと捏ねて押しつぶした。
「や、め、だめっ……そこ、触ら……ないで……!!」
「なんで? 気持ちいいんだろう?」
「だ、だめ……怖……い。あ、は、やぁ……また……何か、来ちゃ……」
「いいよ、イって。芽子の中、すごく締まってる……持って行かれそう」
 城田が言葉で追い詰めれば追い詰めるだけ、芽子は城田を締め付けた。
 城田にとって、今、自分の下に組み敷いている芽子は想像以上だった。少なくとも箍が外れるくらいには。
 自分の手にちょうど収まる胸の膨らみも、熟れた果実のような唇も、そこから漏れる鈴のような嬌声も、時折背に爪を立てるその指も、城田に絡みつく内壁も……
 これまで、何度脳内で抱いたかしれない芽子より、現実の芽子は城田を確実に狂わせた。
 城田は自分を盛りの付いた餓鬼のようだと揶揄しながらも、芽子を責め立て続けた。
「芽子……芽子」
 もはや快楽に呑まれて意識もおぼろげな芽子を城田が呼ぶ。
「……は、ンん、城……田、さん?」
 嬌声を零しながら、芽子が城田を見やれば、
「好きだよ……芽子。大切にする……」
 体では自分を追い詰めながら、口では甘い言葉を降り注いでくれる城田が写る。
 なんだか矛盾している……そんな抗議をしたいが、もう芽子は嬌声以外の声を出せない。
 一方で、城田の額にはしっとりと汗が浮かんでいて、その眉間にはわずかに皺が寄っている。
 城田ももう限界が近いのかと、芽子は震える手でそっとその汗を拭ってやる。
「愛してる……芽子」
 囁かれたそれに、声の出ない芽子は、
“わたしも”
 と唇で紡ぐ。
 それを合図にするかのように城田は今までで一番深く芽子に自身を埋め、膜越しに欲望を放った。
 芽子が意識を手放したのは、それと同時だった。


★*★*★*★*★*★*★*★



 ふと目を覚ますと、芽子の視界には単調に寝息を立てる城田が入る。外は暗く、夜明けにはまだ時間があるようだった。
 そこにいる城田は、眠る前、最後に目にした汗の滲む城田とは違い、さっぱりとした顔で寝入っていた。それは、芽子が知っているいつもの慣れ親しんだ城田だった。
 と言っても、芽子はこれまで彼の寝顔を見たことがなかった。
 一緒に寝るとき、夜は芽子の方が早く寝てしまうし、朝も城田の方が早く起きていた。それに、城田と寝るとほとんど途中覚醒もしない芽子にとって、これは初めて見る城田の寝顔だった。
 きっと、こんな関係にならなければ見られなかった貴重なものだ。
 城田はつい数刻前まで、今はきゅっと引き結ばれているその唇で、幾度となく芽子に愛を囁いてくれた。まるで夢のようだと、改めて幸せを噛みしめる芽子の頬は自然と緩む。
 そんな城田の寝顔をもっと見たいと思って寝返りを打てば、体に甘い痛みが走る。城田に愛された証が、確かに残っている。
 ふと、激しく責め立てられたことを思い出して、芽子は赤面する。
「わたし……抱き枕になるって言いましたけど、あんなに激しいなんて聞いてないですよー」
 芽子は、城田が寝ているのを良いことに、その寝顔にそっと苦情を呟く。
 城田の抱き枕にはなりたいと思うが、毎度アレでは体が持たないと芽子は自信があった。
 そして、未だ起きる気配のない城田に、仕返しとばかりにその頬をぷにっと突く。
 その時だった。
「それは慣れてもらわないと困るな」
 そんな言葉と共に、城田の頬を突いた芽子の指が掴まれていた。
「し、城田さん……起きてたんですか?」
「いや、今起きたところだ。まだ、起きるには早いだろう?」
 ベッドサイドにある時計を見れば、まだ朝の四時を少し過ぎたところだった。特に明日が土曜日であることを考えれば、朝までもう一眠り、いや、ふた眠りくらいはできる。
「……どうした? 眠れないのか?」
 城田は寝返りを打ちながら、芽子を包むように抱きしめる。
「ちょっと目が覚めただけです」
「足りなかったか?」
「…………?」
 一瞬、城田の言っている意味が分からなくて、芽子は首を傾げる。
「もっとシたいか?」
 そう言われればさすがの芽子も合点が行く。
「も、ももももうしばらく良いです。十分です。……ごちそうさまでした!!」
 芽子はその顔を真っ赤にして城田の胸に顔を埋める。
 城田はそんな芽子に笑みを零す。
 そして、大きなあくびを一つ。
「だったらもう一度寝ろ。明日は寝潰すぞ。出張で少し疲れた。……どこにも行かないんだから、いいだろう?」
 少し棘のあるその言い方に、芽子はふと思い出す――そう、伊沢との約束を。
 もちろん、行くわけがないのだが……城田は案外嫉妬深いらしいと、芽子は心の内で独り言ちた。
 なんだかそれがおかしくて、芽子は笑ってしまう。
 そして、あとで城田には内緒で伊沢に断りのメールを入れようと思った。
「じゃあ、今度は城田さんが抱き枕になってください。いつもみたいに……」
 芽子は城田の背にそっと手を回し、静かにその目を閉じた。城田の温もりが暖かく染みいる。
「おやすみなさい……」
「おやすみ……」
 二人が睡魔に呑まれるまでそう時間はいらなかった。

 だって……
 城田は芽子の、芽子は城田の……睡眠導入剤抱き枕だから。

−END−


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* 彼と彼女の抱き枕 2 *

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