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* 彼と彼女の抱き枕 1 *

 時計が金曜日の十一時半を回った頃、ダウンライトが灯るベッドルームで、芽子と城田は部屋の中央に鎮座するベッドに横たわっていた。
 結局あのまま、初姫の言うところの逆転満塁ホームランの結論に達した結果、芽子は城田のマンションにとどまった。
「城田さん……」
 静まりかえった部屋で、芽子は静かに呼びかける。
 同じベッドにいるものの、今日の城田は随分遠いところにいた。しかも芽子の方に背を向けて。
 城田のベッドは元々大きいので、大の大人が二人寝ても余裕である。しかし、それにしても城田は落ちそうなほど端にいる。
 芽子は返事がない城田に対し、もそもそとベッドの中を泳いで城田の背をめがけた。
 城田が起きているのは分かっていた。呼びかけた時に、背中がわずかに動いたから。
 城田の背にそっと触れれば、案の定、ぴくりと反応する。
「起きてますよね……?」
「…………」
「こっち、向いてくれませんか?」 
「…………」
 反応のない城田に、芽子はそのあともめげずに声をかけ続けた。寝たふりしないでくださいとか、返事してくださいとか……
 しかし、まるで芽子が諦めるのを待っているかのように城田は無視をし続ける。
 そして、
「やっぱりもう……抱き枕、駄目ですか?」
 芽子がそう言葉を紡いだ時だった。
 城田の背が今までより大きく動いたかと思うと、芽子は一瞬にして城田に組み敷かれていた。
 しかし、それは先ほどリビングのソファーでされた乱暴な行為とは違い、明らかに手加減をしている。
「やっと、こっち向いてくれましたね……」
 芽子は覆い被さる城田の顔をふにゃりとした笑顔で見つめた。
「どうしてそう無防備なんだ……さっき、怖い思いをしただろう?」
「……怖い思い?」
「さっき……無理矢理、その……」
 言い始めて城田は気まずくなったのか、ふいと視線をそらす。
「怖くは……なかったですよ。ただ少しだけ驚きましたけど」
 城田が恐る恐る芽子に視線を戻せば、芽子は相変わらずの笑みを見せていた。
「それに、わたし……城田さんが優しい人だって知ってます。さっきだってちゃんと途中でやめてくれました」
 更に満面の笑みを浮かべた芽子に、城田はこれ以上は無理だとばかりに芽子から体を離した。
 いや、正確には離そうとしたが、芽子がそれを許さなかった。
「……離してくれ」
「嫌です。離したらまた背中向けるでしょ? いつもそんな風にしてなかったじゃないですか」
 芽子は城田のパジャマをしっかりと両手で掴んだまま拒否をする。
 城田はそれに少し困ったような顔をする。
 芽子は知らないのだ。これまで城田がどんな苦行を強いられていたのかなんて。
 だから、
「だったら……」
 城田はそう言うと、芽子の耳元に顔を近づけ、
「今度こそ襲うぞ、芽子」
 無音に近い声で呟いた。
 城田が言葉を紡いだ瞬間、彼を掴んでいた芽子の手が緩み、そしてダウンライトの明かりでも分かるくらい芽子が耳まで紅潮したのが見えた。
 思った通りの反応過ぎて、城田は逆に笑えてくる。
 芽子のことだ、直接言われなければ、男を煽るというのがどんなことなのかなど全く理解していなかったのだろう。
 想像はしていたものの、芽子のその反応が少しだけ拒絶のようにも捉えられて、城田は勝手に傷つく。
 そのまま静かに芽子から体を離すと、城田は元のようにベッドの端で芽子に背を向けた。
「いいからもう寝ろ。 ……俺が変な気を起こさないうちにな」
 すると、予想外にも芽子はそんな城田の背に抱きついてきた。
 芽子の柔らかさが背中に馴染み、嫌でも城田の男のサガが掻き立てられる。
 またどうせ無意識にやっているのだろうと城田は思った。今までだって、芽子は寝ぼけて城田に抱きついてくることがあった。それと同じだろうと。
 城田は一つ大きく息を吐く。
「わかった。抱き枕にはなってやるから……」
「……いいです。…………てください」
 芽子のくぐもる声が聞こえたが、言葉が聞き取れない。
「何?」
 城田が聞き返せば、
「変な気……起こしてもいいです。わたしを、城田さんの抱き枕にしてください」
 今度はしっかり聞こえた。


 ◆◆◆


 ダウンライトの光の下、城田と芽子の裸体が柔らかく照らし出される。
「はっ……ン、ぁあ……ぅん……」
 芽子は今、息つく間もなく城田の愛撫を全身で受け止めていた。
 赤く色づいた胸の先端を、城田はぴちゃぴちゃとわざと音を立てて嘗め上げる。
 芽子は羞恥心にその腕で自らの目を覆う。それでも、行われていることが気になってわずかに覗き見れば、乱れて垂れ下がった前髪の下からこちらを見る城田と視線が合致する。
「ん……やぁ……」
 城田がこんなに色気のある男だとは思わなかった。普段、スーツを着て仕事をしている城田、部屋着やパジャマでリラックスしている城田、朝隣で優しく起こしてくれた城田……今の城田はそのどれからも想像できない城田だった。
 脱げば思いの外鍛え上げられている体も、乱れた髪も、欲に濡れたその視線も……
 芽子は城田に今されていることにも感じたが、その色気の溢れる視線に犯されそうだった。
 芽子が恥ずかしさに体を反って逃げようとすれば、
「だめだ、逃がさない……芽子」
 艶めいた声でその行動を抑止し、芽子の腰をがしりと掴む。
 そして、芽子の膝を割り、足を押し広げる。
「あ、城田さん……待って……」
 足の間に城田の体が入り込み、にわかに不安になった芽子が今まで顔を覆っていた手を伸ばせば、それは意図もたやすく絡め取られる。
 視界の開けた芽子に、意地悪そうに微笑む城田が飛び込む。
「待たない。……やっとこんな風に抱けるんだ。俺が、今までどれだけ我慢したと思っている?」
「そんな……知らない……」
「だろうな、芽子はいつも無防備に寝てたから。……俺が同性愛者だと思ってたから安心してたか?」
 言うなり、城田は芽子の秘部に顔を近づける。
「すごい、まだ触ってないのにトロトロだ」
 城田のその言葉に反応するように、芽子は自分の秘部が更に熱を持ったのが分かった。
「や……あン……」  
「奥から、また溢れてきた。気持ちいい? 芽子」
 言葉で、狂わされる――駄目だと思えば思うほど、芽子は自身が制御できないほどに感じてしまう。
 次の瞬間、秘部の割れ目を城田の指がツッと這った。
「ひゃんっ……!」
 電気が走るような衝撃に、芽子は悲鳴のような嬌声を上げた。
 城田はそのままくちゅくちゅと、先ほど同様、芽子にわざと音を聞かせるように擦り、解す。
「あ、く……そこ……だめっ……やぁ……あ、はぁっ……」
 いつの間にか隆起した中心部の蕾――それを城田の指が掠めるたび、芽子は嬌声を強くする。
 もう恥ずかしくて、いたたまれなくて、芽子は顔を両手で覆ってしまう。
 しかし、それは叶わなかった。
「隠すな。芽子がイク顔……ちゃんと見せて」
 芽子の手を拘束し、不敵な笑みを見せる城田と視線が絡む。
 そして、城田の長い指が芽子の中心にずぶりと突き立てられる。
「――あぁっ!!」
 悲鳴を上げるやいなや、今度はくるりと円を描くように内壁を撫でられる。
 続けて、中心部の蕾を強く押しつぶされたその時……
「あっ……やあぁぁぁっ!」
 芽子は呆気なく、その日最初の波を迎えた。

* 彼と彼女の抱き枕 1 *

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