過去、長きにわたり日本の財界において頂点に君臨している華宮グループ。
その事業展開は幅広く、鉛筆からロケット開発にまで及び世界規模でもHANAMIYAの名は広く知れ渡っている。
今から二十数年前、華宮グループ総帥、
崇は大学卒業後、総帥である父の元で帝王学を学び次期総帥としての見習いをしていた。
しかし、彼には財界で生きていくような闘争心も自己顕示欲もなかった。その性格はいたって穏やかであり、争い事を嫌う心優しい青年であったのだ。
それでも、その崇がいずれは良家の娘と結婚して次期総帥となり、華宮グループはさらなる発展を求めて進んでいく……誰もがそう予測し、少しも疑おうとはしなかった。
しかしながら、そんな崇が恋に落ちたのは、屋敷で働いていた天涯孤独のメイド、
嫉妬や陰謀、裏切り――そんなものが渦巻く中にいた崇は、純真無垢で明るい有希子に惹かれたのだ。一方で有希子もまた、心優しい崇には以前からずっと憧れていた。
もちろん、二人の仲は認められるわけがなかった。父である早次郎を筆頭に周囲は猛反対をする者ばかり。そして、何とかして二人の仲を引き裂こうともした。
彼らはただ純粋に愛し合っただけなのに『身分の違い』というたったそれだけのために、批判の嵐を受け続けた。
しかし、一度惹かれ合った二人の愛は強く、そのあまりの純粋さ故に誰も引き裂くことはできなかった。
やがて崇は地位も名声も何もかもを捨て、実の父とは絶縁状態になってまで有希子と駆け落ちをしたのだ。
それからしばらくして、華宮崇という名は財界から排除され、いつしか誰もが忘れ去った。
数年後――
ごく普通の家庭を築いた崇と有希子の間には娘が一人生まれた。名は
由利亜は両親の溢れんばかりの愛を一身に受け、普通の家庭で普通の娘としてすくすくと育った。
誰も祝福してくれなかった崇と有希子の結婚。辛いことも多かったはずなのに、崇と有希子は由利亜の前でいつでも幸せそうに笑っていた。
そんな有希子の口癖はこうだった。
『お母さんはね、大好きなお父さんと……最愛の人と一緒になれたから幸せなのよ。だから由利亜も、いつかそんな人と出会って幸せになりなさい』
幼い由利亜はそんな有希子の言葉を信じ、いつしかひとつの夢を持つようになった。
──大きくなったら、わたしも最愛の人と一緒になれますように