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* 重き代償 第5夜 *

「……達したか?」
 ロイフェルドは指を抜き取り、息を荒げるリリアナを見下ろした。
 リリアナは潤む瞳で、自分の身に何が起こったのか分からない、とでも言いたげに、放心状態で彼を見上げている。
 ロイフェルドは濡れそぼった指にそっと口づけると、それをまるでリリアナに見せつけるかのように舐め上げた。彼女の密ですっかりふやけてしまった指に、ロイフェルドはゆっくりと舌を這わせる。
 ランプに照らし出されるその姿は男性なのに妖艶で、リリアナは目を背けたいのにできなかった。
「大丈夫か?」
 ひとしきり舐め終えると、ロイフェルドはゆっくりとリリアナに覆い被さり、汗で額に張り付いた彼女の髪の毛をそっと解いてやった。
 その手が酷く優しくて、リリアナは不思議な感覚を得た。
 単に欲望を排出するためだけの相手なら、こんなに優しくする必要などないのに、と自虐的な思いが彼女を支配する。
「努力はするが……これから先は辛い思いをさせるだけかもしれない」
 再び優しく声を掛けたロイフェルドに、リリアナは思わず、彼の手をそっと掴んでしまった。
「力を抜け。できるだけ、優しくする」
 ロイフェルドはリリアナの手を絡め取り、シーツに縫いつける。
 やはりそれは良いようもないほど優しくて、リリアナは気づいた時には頷いていた。
 その後、ロイフェルドが与えてくれた口づけにリリアナが応じていると、彼女の足はゆっくりと大きく広げられた。
 あまりの恥ずかしさに何が何だか分からないうち、リリアナの中心に熱いものが宛がわれる。
「!?」
 気づいた時には遅かった。
 先ほどの指とは比べものにならない圧倒的な異物感がリリアナを襲う。
「んーーー!!」
 悲痛な叫びを上げるが、それはロイフェルドの唇で閉じこめられてしまう。
 痛い、なんて言葉で片づけられるものではなかった。
 そのあまりの衝撃に、リリアナはこのまま身を引き裂かれて死んでしまうのではないかとさえ思った。
(やめて……苦しい……痛い……怖い…………)
 思うが、キスで塞がれた口から言葉を発することはできない。
 ただ、その瞳からは涙だけがポロポロとこぼれた。
 底知れない闇のような恐怖心が無意識のうちにリリアナの体に力を入れさせる。
「リリアナ、力を抜け」
 あまりのきつさにロイフェルドはその眉間に皺を寄せる。
「リリアナ……リリアナ……」
 ロイフェルドは何度も名を呼ぶが、リリアナは応じることなどできない。本人にとっては力を入れている意識さえなければ、どうやったら力を抜けるのかも分からないのだ。
 やがて呼吸も巧くできずに意識が朦朧とし始めた頃、
「リリアナ……」
『リリアナ……』
 ロイフェルドの声が、記憶の中に残る声と被る。
(わたしを……呼んで…いるのは……誰……なの?)
 もはやリリアナにはどちらが現実で、どちらが幻聴なのかも分からない。
「リリアナ……」
『リリアナ……』
(……あぁ、この声は…………)
「ケル……ウェス……」
 涙と共にリリアナの口から無意識にその名前が零れた。
 瞬間、ロイフェルドの顔が歪んだことにリリアナは気づかない。
 ロイフェルドはそのままリリアナを抑えつけるようにし、力任せに一気に貫いた。
「いやぁぁぁッッ!!」
 痛みを超越した強烈な衝撃に一瞬にして正気に引き戻されたリリアナは、耐えきれずにロイフェルドの背に爪を立てた。
 それからすぐに、初めての印がリリアナの秘口から流れ出し、シーツを汚す。
「……悪いが、まだ終わりじゃない」
 ロイフェルドの言葉は、リリアナにとってまるで死刑宣告のようだった。
 それは、先ほどのような優しさは欠片も含んでいない、酷く冷めた声だった。
(まだ……まだ終わらないの? こんなに……痛くて……辛いのに……)
「動くぞ」
 ロイフェルドはそう言うと、リリアナの意向などお構いなしにゆっくりと抽挿を始めた。
「ひぁ……ん……いた、い……やぁ……」
 ロイフェルドの動きと共に、リリアナの痛みが増強される。
 まるでそこに心臓があるのではないかと思うくらいズクン、ズクンと脈打つように痛みが生じる。
(痛い……痛い…………)
 初めて男性を受け入れたリリアナは、痛みに支配される思考回路で懸命に考えていた。
(これが……もしも……好いた相手なら……愛する夫なら……)
(…こんな痛み……何でもなく、耐えられたかもしれない…………)
 そんなこと、考えても仕方のない事だと思った。
 考えたところで痛みが治まるわけでも、この苦しみが引くわけでもない。それでも、リリアナは考えずにはいられなかった。
「んぁ……いた…い……いやぁぁ……あぁぁ……」
「慣れろ、リリアナ。そのうち必ず良くなる」
 夫婦が交わすものとは程遠い、甘さの欠片もないロイフェルドの言葉にリリアナはさらに追いつめられる。
(もしも……愛する人ならば…………)
 痛みのせいではない、悲しみの涙がリリアナの瞳から一筋零れ落ちた。


*−・−*−・−*−・−*−・−*



「結局……酷くしてしまったな」
 ロイフェルドは隣で眠るリリアナの頬をそっと撫でる。
 リリアナは結局最後まで良くなることはなく、耐えられずに気を失った。
「すまなかった……でも……」
 ロイフェルドは言いかけたが、リリアナの目尻に残る涙に気づいてそれを優しく拭ってやった。
「……ん……」
 わずかに声を上げたリリアナに起きたのかと思うが、それ以上はピクリとも動かない。
 よほど疲れたのだろう、その声はわずかに嗄れている。
 ロイフェルドはそれからしばらくリリアナを見つめていた。
 やがて東の空が白み始めた頃、彼は床に散らばった隊服を身につけた。そして、祭壇を覆ったマントに手を掛けたまま、一度だけリリアナを見やる。
 昨晩、聖像の前で祈りを捧げていたリリアナが思い出される。
 暗闇の中、月明かりに照らされながら、ただ真剣に真っ青な顔で祈りを捧げていたリリアナ……
 ロイフェルドはマントに掛けた手をゆっくりと下ろし、そのままベッド脇まで寄るとリリアナの肩を揺らした。
「起きろリリアナ……夜が明けるぞ」


 ◆◆◆


 あまり聞き慣れない声により、リリアナは覚醒へと導かれる。
 気が付けば、空は既に明るみ始めていてロイフェルドの姿は何処にもなかった。
 リリアナは慌ててその場に身を起こす。
 瞬間、
「――――ッッ!!」
 言葉にならない叫び声がリリアナの唇から漏れた。
 リリアナの下腹部を違和感と鈍痛が襲ったのだ。
 考えなくともすぐに分かる。
 初めて男を受け入れた後の痛み……
 最中にあれだけ痛かったのだ、痛みが残らない方がおかしかった。
 リリアナは下腹部を押さえるようにして、ベッドから抜け出る。
 床に散らばった服をかき集めていると、ベッド脇の小机に紙が一枚置かれているのに気づいた。
 リリアナはすぐに目を通す。
『今夜、またこの部屋で待っている。体が辛ければ来なくとも良い』
 名前も何も書いては無かったが、それがロイフェルドからのものだとすぐに分かる。
 リリアナは女官服を身につけ、ストールを羽織るとランプを吹き消した。
 ふと隣を見れば、そこにはロイフェルドのマントがあった。
(忘れたのかしら……)
 リリアナはそれを畳んで胸に抱える。
 その瞬間、ロイフェルドの香りがふわりとリリアナの鼻腔を刺激する。昨晩、ずっとリリアナの傍にいた香り……
 その香りが刺激となり、記憶が断片的に戻る。
 リリアナはそれを払拭するように頭をふるふると振った。

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* 重き代償 第5夜 *