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* 秘めた想い 第7夜 *
リリアナの体は甘い麻薬だった。
どこに口づけても匂い立つ甘さを感じ、ロイフェルドはまるで獣のようにその柔肌に齧り付きたくなる衝動に駆られる。
それでも、最大限の理性で自らの本能を抑えつけ、なるべく優しくリリアナへ愛撫を与えた。怖がらせないように、少しでも力を抜けるように。
しかしながら、経験のないリリアナが恐怖心に体を強ばらせるのは当たり前のことで……
そうやって震える姿もまた可愛いと思った。そして時折、我慢し切れずに漏れ出る声はロイフェルドを狂わせるような音。
ロイフェルドはそれをもっと聞きたいと願うが、リリアナは恥ずかしいのかその口を懸命に塞ごうとする。
だから、
「声を出せ。ここには俺たち以外誰もいない」
適当な理由を付けてロイフェルドはリリアナの手を一括りに絡げてしまった。
「ん……ふぅ……クラヴィ……アーナさん……」
リリアナの甘い声がロイフェルドの鼓膜を刺激する。
すっかり貪欲になったロイフェルドは、今度は自らの名を呼ぶようにリリアナに伝えた。
それからすぐに、
「……ロイ、ド?」
リリアナの唇から零れ出たその音に、ロイフェルドはゾクリと肌を粟立てる。
まるで恋人同士になったかのような甘美な夢がロイフェルドを包み込んだ。
しかし、そんな夢を見たのは彼の独り善がりでしかなく、どれだけ優しい愛撫をしてもリリアナの秘部は蜜を含まなかった。
理由など、考えずとも分かっていた。
好きでもない男に、復讐の代価として抱かれて感じろという方が無理なのだ。それも経験が全くない状態で……恐怖心しか持たないのが普通だ。
だがこのままではリリアナが辛い思いをするのは目に見えていた。
だからロイフェルドはそれを少しでも緩和してやりたくてリリアナの秘部にそっと口付ける。本当はその理由を優しく告げてやればいいのに、
「濡れなくて辛い思いをするのはお前だ」
そんな冷たい言い方しかできなくて。
それでも、ロイフェルドの献身的な態度が功を奏したのか、リリアナは徐々に反応を見せ始めた。
やがて頃合いを見てロイフェルドはリリアナの中心に指を一本突き立てた。当たり前の如く、彼女の体はそれを拒絶する。
その内部は驚くほど狭く、処女らしい膣圧がロイフェルドの指を排除しようとしていた。苦しむリリアナには可哀想だが、そこに自らの物が入った時のことを想像せずにはいられず、ロイフェルドは自身に自然と力が入るのを感じた。
逸る気持ちを抑え、ロイフェルドはひとまずリリアナが達せるように徹することにした。その方が彼女が楽なのは分かっていたから。
それからしばらく刺激を与えてやると、リリアナはロイフェルドの思惑通り達してくれた。
ロイフェルドにすれば単なる一段階でしかないそれも、リリアナにとっては大仕事を終えたような感覚で、彼女はすっかり脱力して肩で息をしている。
そんなリリアナに少し休む時間を与えてやろうと、ロイフェルドは蜜壺から抜き取った指を舐めながら彼女を見下ろす。
リリアナは眉間に皺を寄せ、伏し目がちに胸を上下させていた。そんな彼女は処女とは思えないほどに艶めいていて、しかしその反面で聖女のような清らかさも確かにその身に纏っていた。
そしてまだ彼女の息も整わないうちに、
「努力はするが……これから先は辛い思いをさせるだけかもしれない」
ロイフェルドはリリアナにそう告げる。
すると、彼女は恐怖心を感じたのかロイフェルドの手を自ら握った。それはまるで、恋人に縋るかのような幻想をロイフェルドに与える。
「力を抜け。できるだけ、優しくする」
ロイフェルドはリリアナに応えるようにその手を優しく絡め取り、シーツに縫いつけた。
そしてリリアナが律儀に頷くのを確認して、ロイフェルドは彼女に口付けを落とす。
キスを徐々に深くしていき、やがてリリアナがそれに夢中になった頃、ロイフェルドは己自身を彼女の中心へと宛がった。
瞬間、異変に気づいたリリアナがピクリと体を震わせたが、最早ロイフェルドは止める気などなくそのまま徐々に貫く。なるべく負担を掛けないよう、ゆっくりと、静かに。
どんなに優しくしても破瓜の痛みは辛いのだろう、キスをする唇の合間からリリアナの悲痛な叫び声が漏れ、瞳からはポロポロと涙がこぼれ落ちる。
ロイフェルドはそれを聞きながら、見ながら、罪悪感を持たずにはいられなかった。しかしその一方で、長年願って止まなかったことを叶えられた幸福感が彼を支配する。
その至福と内部のあまりのきつさに、ロイフェルドはまだ挿入途中にもかかわらず達してしまいそうになる。しかし、まだ夢から覚めるのは早すぎるとばかりに懸命に耐えた。
ロイフェルドはリリアナに力を抜くよう声を掛けたが、もはや彼女の耳には届いていないようだ。
あまりの快楽に、もう本能のまま彼女を突き上げたい……そんな不埒な思いがロイフェルドの中でこみ上げるが、それを精一杯の理性で封じ込めてリリアナに優しく呼びかける。
「リリアナ……リリアナ……」
ロイフェルドは何度もその名を呼ぶが、リリアナは固く目を閉じたまま応じない。
それでも、優しく何度も呼びかける。
そして、
「リリアナ」
何度目かの呼びかけをした時、涙と共にリリアナの口から消え入るような声がこぼれ落ちた。
それは……
「ケル……ウェス……」
ロイフェルドがこの世で最も聞きたくない名。最も憎むべき名。
甘美な夢の終焉はあっけなくやってきた。
リリアナのその一言によって、ロイフェルドの中で何かが切れた音がした。
もう優しさや我慢という言葉など排除してそのまま力任せに貫けば、
「いやぁぁぁッッ!!」
キスを止めた唇から、リリアナの悲痛な叫び声が漏れ出る。
しかし、ロイフェルドはもう止まらない。リリアナの苦痛に歪む表情も、声も、もはやロイフェルドには届いていない。
「……悪いが、まだ終わりじゃない」
苦しむリリアナに死刑宣告とも言える言葉を与え、ロイフェルドは彼女を突き上げる。
「ひぁ……ん……いた、い……やぁ……」
リリアナは涙をポロポロと零して苦しんだが、ロイフェルドはそれを拭いもしなければ、自らの行動を止めてもやらなかった。
最も愛するリリアナに、最も憎むべきケルウェスの身代わりにされた……それがロイフェルドを追いつめたのだ。
リリアナが自分に抱かれながらあの男のことを考えているのだと思ったら、口惜しくて、許せなくて……――
もはや歯止めなど利かなかった。
「んぁ……いた……い……いやぁぁ……あぁぁ…………」
「慣れろ、リリアナ。そのうち必ず良くなる」
痛がるリリアナに与えるのは甘さの欠片もない言葉。
そしてなお、自らを刻みつけるかのようにロイフェルドはリリアナを突き上げた。
お前はもうケルウェスなんかの物じゃない、俺の物だ……そんな風にリリアナの体に無理矢理教え込むかのように。
結局、ロイフェルドが達するまでリリアナは意識を保つことができなかった。
情事の後、リリアナの体を綺麗に拭ってやり、ロイフェルドはしばらくその寝顔を見ていた。
その疲れ果てた寝顔に、ロイフェルドの罪悪感が強く刺激される。
もちろん後悔もしたが、あの名を呼ばれてしまっては堪えることなどできるはずもなかった。
やがて東の空が白み始めた頃、ロイフェルドは脱ぎ捨てた隊服を再び身につけた。そして、祭壇を隠してあるマントに手を掛け、一度だけリリアナを見る。
(目が覚めてこれを目にするのは……酷だろうな)
ロイフェルドは昨晩真っ青な顔をして真剣に祈りを捧げていたリリアナを思い出し、マントに掛けた手を下ろした。
単なる気休めに過ぎないのは分かっている。来た道を戻れば、これの比ではない大きさの聖像を目にしなければならないことも分かっている。
それでも、起きたその時くらいはリリアナが罪の意識を持たずにいられるように……
冷静さを取り戻したロイフェルドの優しさだった。
* 秘めた想い 第7夜 *